フキ伯母さんのお土産
主人は普段、めったに私どもに土産など買って来たことはありませんでした。
それでも伯母には、本当によく気がついて土産を買ってかえりました。
銀座あたりからでも、ちょっとそこいらへ出た時でも、イシヴァネスの袖の中から、右に二つ、左に三つと、しかも上等の大きな林檎を買って来ました。
伯母はその上等の林檎が特に好物でもありました。
「ばあちゃん」と言いながら、一つまた一つと襖から出して火鉢のふちや、食卓の上にならべました。
伯母はそんな時たいへん良い機嫌で、ならべられる大きな林檎をあかず眺めておりました。
芥川文・中野妙子記『追想芥川龍之介』より